サルビアの育てかた
 薄暗いコーナーの端に寄ると、フレアは無表情で勢いよく俺の方を振り向いた。

「ヒルス!」
「どうしたんだよ、そんなにテンパって」
「あなたたち、さっきのダンスはやりすぎよ」
「えっ」

 ひと目を気にしているのか、フレアはやたらと周囲に目を配っている。

「あの子を大事にしたいなら、あまり人前でイチャイチャしない方がいいわよ」
「イチャイチャって。そんなつもりは……」
「いくら男女のペアダンスとはいえ、兄妹であんなに密着して見つめ合っていたら違和感がありすぎるわ」
「……」

 きつい口調で言われ、俺は何も言い返せない。
 たしかにたくさんの観客が注目する中、ラストはレイのことしか見えなくなっていた。

「わたしはあなたたちの事情を知っているからこそまずいと思った。でも、それだけじゃないの」

 誰もいないことを念入りに確かめるように辺りを見回し、フレアは更に声量を下げる。

「あくまであなたはプロのダンサーよ。それにレイはダンス界隈でも注目されている。マスコミが、もしかするとあなたたちの関係を探り始めているかもしれないから……」
「なんだってっ?」

 思いも寄らない話に声が裏返ってしまう。

 マスコミが? なぜ俺たちの関係を探るんだ。
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