サルビアの育てかた
 家が近づくにつれ、いつもは閑静な住宅街の中が妙に騒がしくなってきたの。町と町の間で響き渡るのは、複数の消防のサイレンの音だった。

「凄い音だね……どこかで火事かな? 救急車の音もするね」

 私が呟く声がかき消されそうになるほど、町に響く警報音がうるさく鳴り続ける。

 最初は全然意識していなかったけれど──何となく、私たちが帰る方角へ消防車も向かっていることに気がついた。隣町の方からも緊急車両が出動しているようで、ヒルスは何度か道を譲ったの。

 おかしい。何だろう……この得体の知れない嫌な予感は。

「家の方向で何かあったのかな……?」

 家に近づけば近づくほど、サイレンの音が大きくなっていく。どうしても違和感が拭えない。

「いや、まさかな」

 ヒルスは低い声で独り言のようにそう漏らす。
 不安になってしまう。私はじっと彼を見つめた。

「ねえ、ヒルス」
「ん?」

 彼の両手はハンドルを握りながら微かに震えている。

「違うよね」
「何が?」
「違うって、言ってよ」
「だから、何が……?」

 抽象的な会話で、お互いに何を言いたいのか分からない。
 ううん。分からないんじゃなくて、言いたくなかっただけ。
< 312 / 847 >

この作品をシェア

pagetop