サルビアの育てかた
 小休憩になり、練習場には熱気が充満していた。ついさっきまで真剣な顔だったメンバーの表情はたちまちほぐれ、普段の様子に戻っていく。切り替えが早いのも見ていて感動する。

 ヒルスに話しかけようと思ったけど、スポーツドリンクで喉を潤す彼の隣にはメイリーがいた。

「ヒルス、サビのときちょっとだけズレちゃったー」
「そうか? 良くできていたと思うけどな」
「本当にっ? でも、まだ自信ないからこの後一緒に合わせようよ。ヒルスと同じ振り付けだし」
「まあ……少しくらいならいいけど」
「やった、嬉しい!」

 ニコニコの笑顔で彼と話すメイリーはなんだか楽しそう。厳しそうな印象だったけど、そうでもないのかなあ。

 会話に割り込むのは悪いと思い、遠目で二人の様子を眺めていると、スポーツドリンクを差し出す大柄な人が現れた。

「レイ、水分補給はしっかりした方がいいぜ」
「えっ? あ……はい。ありがとうございます」

 差し出されたドリンクを受け取りながら、その人の顔を見上げた。
 サングラスをかけていて表情があまり分からない。タトゥーがたくさん刻まれた太い両腕を組みながら、じっと私を見下ろしてくる男の人。ちょっと柄が悪そう。
 思わず顔を強張らせていると、その人は歯茎を出して笑うの。

「ヒルスの妹って聞いてるぜ。想像以上にセンスがあるな!」
「そう、ですか?」
「このクラスは初日で緊張するだろ。それでもあんなにいいダンスができるんだからさすがだぜ」

 その男の人はどうやら私を褒めているみたい。心の中でひっそりと胸を撫で下ろす。見た目がどうしても怖いから、私の口調は堅くなってしまうけれど。
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