サルビアの育てかた
「──すみません、急に呼び止めてしまって」
「いいんですよ。わたしもあなたとお話がしたいと思っていました」

 柔らかい声でシスターは頷いてくれる。
 不思議だ。この人の喋りかたや表情は、暗い気持ちを癒やしてくれる、見えない力がある気がするんだ。

 応接用の椅子に座ってもらい、俺もシスターの前に腰かけた。

「ヒルス、大丈夫ですか?」
「はい。見てのとおりです」
「……見てのとおり、辛そうですね」
「そうじゃなくて。俺は大丈夫です。レイを支えないといけないから、悲しんでる暇はないんです」

 俺がそう言うと、シスターは笑みの中に困惑したような表情を浮かべるんだ。

「今でも変わらずに、あの子を大切に想っているのですね」
「はい、もちろんです。レイは、俺の大事な家族です。兄として、支えないと……」

 俺の言葉を聞くと、シスターは一瞬だけ悲しそうに俯いた。

「あなたが幼い頃から優しい心の持ち主だというのは、わたしはよく知っていますよ。だけどその優しさを、たまには自分自身にも向けてあげて下さい」
「え?」
「こんなにも疲れた顔をして。クマもできて、以前会ったときよりもずいぶん痩せたように見えます。そして何より、あなたの表情は悲しみでいっぱいになっていますよ」
「そ、そうですか?」

 思わず吃ってしまう。

 たしかに夜はあまり眠れないし、食欲も激減してしまった。毎日、シャワーを浴びながらレイにバレないよう一人で泣きまくってはストレスを解消している。

 でも誰かと話すときだけは、悲しみを隠しているつもりだった。
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