サルビアの育てかた
「ご両親を失くして平気な人などいません。永遠の命の始まりではありますが、突然大切な人がいなくなる悲しみは計り知れません。あなたは支えるだけでなく、誰かに支えてもらうべき立場でもありますよ」
「そんな。俺は……本当に大丈夫です。それよりレイは今、精神的なショックで失声症になってしまったんです。声が出せなくなるほど、彼女は傷ついています。だから、俺が守らないと」

 これは俺の本心だ。
 シスターはどこか空笑いのような表情になり、だけど声だけは透き通っていて──その様子に俺は戸惑ってしまう。

「あの子ならきっと大丈夫です。あんなに立派なお嬢さんに成長したのですから。家族からの愛情をたくさん注いでもらってきた証ですね。この悲しみも、彼女ならきっと乗り越えられる」

 シスターは、俺の肩にそっと手を置いて更に続ける。

「だけどそれは、あなたが元気でないといけません。今のあなたは疲れ、悲しみ、不安などの心情が見るからに伝わってきますよ。辛ければ大切な人に支えてもらい、癒やしてもらって下さい」 

 そう言われても、どうしても頷くことができなかった。
 大切な人に支えてもらう? 癒やしてもらう? 俺の大切な人は、レイだ。だけど今こんな状況で、彼女に癒やしを求めるなんて無理な話だ。

 シスターはもう一度だけ優しく微笑んだ。

「大丈夫です、ヒルス。あなたの大切な人を信じてあげて下さい」

 それだけ言うとシスターは立ち上がり、背を向けて控室から立ち去ろうとした。
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