サルビアの育てかた
「おい、レイ」

 暗闇の外から、誰かが私を呼んでいる。戸惑っているような、けれども優しくて、安心感を与えてくれる声なの。

「レイ、起きろ。平気か」

 肩をそっと叩かれ軽く揺さぶられる。唸り声が止まらない中、私はハッとした。

 ゆっくりと瞼を開き、現実に戻ると──

「……ヒルス?」

 心配そうな眼差しをこちらに向けるヒルスがいた。
 自分でも気づかないうちに息が荒くなっている。まだ状況が把握できなくて、目を見張ったまま固まってしまう。
 そんな私をそっと撫でてから、ヒルスは穏やかな口調で言うの。

「大丈夫か。変な夢でも見ていたんだな」

 その問いに思わず視線を逸らした。瞳の奥が滲んでしまう。どうにか感情を堪えようと歯を食いしばり、小さく首を振る。

「悪魔がいるの」
「……え?」
「暗い部屋の中で、いつも悪魔が隣にいるの。怖い顔をして、叩いたり殴ったりしてくるんだよ……」

 たった今見たあの恐怖の映像を思い出しただけで身震いしてしまう。一粒の雫が勝手に頬へと流れ落ちる。
 暗がりの中、ヒルスは私をじっと見つめて言葉を失くていた。
 恥ずかしい。たかが怖い夢を見ただけで泣くなんて。だけど、どうしても抑えられないの。

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