サルビアの育てかた
 声を殺して肩を震わせていると──ヒルスはそっと、私の身体を抱き寄せてくれた。

 大きくて逞しい腕に包まれると、とても心地がよかった。まるで見えない力で癒されているみたいに。

「心配するな。ただの夢だよ。どんなに怖くても、目を覚ませばそれで終わりだ」
「……うん」

 暫しの間口を閉ざし、彼は震える私の背中をさすり続けてくれた。
 室内はしんと静まり返り、時折外からの風の囁き声が通り過ぎるだけになる。

 どれほどの時間が流れたのかな。優しい抱擁のおかげか、気持ちが少しずつ落ち着いてきた。ふとヒルスに微笑みを向けてみせる。

「ヒルス」
「ん?」
「ありがとう。……もう平気」

 私を包み込む腕をそっと放し、ヒルスも微笑み返してくれる。

「一人で寝られるか?」
「もう子供じゃないから大丈夫だよ」
「そう言ってるうちは立派なガキだな」

 ヒルスはわざと意地悪そうに笑った。そう気づいた私は頬を膨らませる。

「もう。子供扱いしないで」

 きっと今の私は顔が真っ赤になっている。
 そんな私のことを、安堵したような瞳で見るとヒルスは部屋を出ようと背を向けた。

「ヒルス」

 背中に小さく声をかけると、彼はもう一度立ち止まってこちらを振り向いた。

「おやすみなさい」

 なんでないただの挨拶の言葉だよ。それなのに──彼の表情はとても柔らかくなった。

「おやすみ」

 そう返事をしてから自分の部屋に戻って行った。
 不思議……。たった今まで怖くてどうしようもなかったのに、ヒルスが優しく抱き締めてくれただけで心が安らいだ。胸の奥がキュッとなる。
 変なの。あんまり経験したことのない感覚がしたから。

 横になり、火照る身体を布団で包みながらもう一度瞳を閉じる。彼のぬくもりがまだ残っているみたい。

 その夜は優しさに包まれて、自分でも驚くほどにゆっくり眠ることができた。
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