サルビアの育てかた
 仲間たちと話をしていると、遠目でフレアがこちらを眺める姿が目に入った。俺の足は自然と、彼女の方へと歩み寄って行く。

「フレア、久しぶりだな」
「ええ。本当に、久しぶりね。このまま辞めるのかと思ったわよ」
「そんなわけないだろ」

 心なしかフレアの瞳が潤っているように見える。しかしその表情はとても柔らかい。

「おかえり、ヒルス」
「ああ……。ただいま」

 フレアは両腕を組み、ため息をひとつ吐く。そうしてまたいつもの調子に戻るんだ。

「まったく。まだまだ完全に復活したわけじゃないのに無理しちゃって!」
「は? いや、もう立ち直ったから来たんだよ」
「嘘。あなたの分かりやすい性格は相変わらずよ」

 ギクリとする。
 心も体も百パーセント万全と言うわけではない。だが、いつまでも家に籠もっていては余計に気分が落ちていくのは実証済みなんだ。
 俺は大きく首を振る。

「これからいつもどおりの俺になるんだよ。心配するな」
「そうしてくれなきゃ困るわ。あなたが休んでいたこの数カ月間、殆どわたしがレッスン指導の穴埋めをしてたんだからね」
「ああ……いつも悪い」
「もう過ぎたことは別にいいんだけどね。早くレッスンに戻れるよう、ちゃんとダンス練して来なさいよ」
「わ、分かってるよ」

 多大なる迷惑をかけてしまったことに申し訳ない気持ちが湧き出る。
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