サルビアの育てかた
 俺は先生の前に立ち、背筋を伸ばした。

「先生、おはようございます。この度は──」
「ヒルスおはよう! ダメだよ、謝罪なんていらないからね!」

 俺の言葉を遮り、きっぱりとそう言う。先生はいつも以上に輝いた表情をしていた。

「僕は君が戻ってきてくれたことに感謝したいんだ。首を長く長く、キリンさんみたいに長くして待っていたからさ!」
「……ありがとうございます」

 感謝したいのは俺の方なのに。長期間スタジオに来られなかった俺を一切責めることもなく、普段どおりの──いや、いつも以上に高いテンションで迎えてくれる先生が俺は大好きだった。

「スタジオを休んでいた間は踊れなかったんだろう?」
「はい、お恥ずかしい話ですが。何も手につかなくて」
「今日からいきなり生徒たちに指導するのは難しいと思うからね。身体の調子を戻すことから始めよう」
「分かりました」

 その日、俺が得意とするブレイクダンスの技をジャスティン先生に見てもらうことになっていた。

 本当に久しぶりに踊る。練習場の一室に先生と二人で入り、固くなってしまった全身を思いっきり伸ばした。柔軟体操を忘れず念入りに。

「それじゃあ、ひとつずつ技を決めてみようか」

 俺は気合いを入れて全身を動かした。明日には、レッスンの指導に入れるよう先生に認めてもらうんだ。

 その一心で、俺は思い切り全身の筋肉に力を込めた。
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