サルビアの育てかた
 ──せっかくジャスティン先生が時間を割いてくれたというのに、俺は得意としていたブレイクダンスを上手く踊ることできなかった。
 基本の技やパワームーブなどは勢いに任せてなんとかこなせた。だがバク宙や側宙、コークスクリューなど、手を床につけずに空中で身体を回転させるアクロバット系の動きになると恐怖を感じてしまった。
 何度も何度もトライしたが、結局俺はジャスティン先生の前で一度もそれらの技を決められなかったんだ。

「今日はもういいよ、ヒルス。焦らないで」

 そう言ってくれた先生の声は柔らかいのに、顔は全然笑っていなかった。

「明日には必ず成功させます」
「いや、焦った末に怪我をしてしまうよりも、少しずつ調子を戻した方がいいよ」
「それじゃあレッスンは……」
「しばらく指導に戻るのは難しいかもしれないね」

 すぐにでも復帰できると思っていたのに、許可が下りず相当なショックを受けた。今まで何ヶ月も踊らずにいた後悔が、更に俺の中で肥大化していく。

「ヒルス。想像していた以上に、本調子じゃないみたいだね」
「すみません。もっとよく食べて、身体も鍛え直してきちんと基礎練習もしていきます」
「いや、身体の調子もそうなんだけど。一番は心の問題だよ」
「えっ」

 先生は神妙な面持ちになる。

「君は一番甘えたい人に素直になれないみたいだね」
「どういう意味です?」
「いつも君をそばで見守っている子が言っていたんだ。『ヒルスはどうしていつも強がっているんだろう』ってね。もっと甘えてほしいみたいだよ。分かるかい?」
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