サルビアの育てかた
「先生、本当に申し訳ないです。呆れますよね」

 思わず低い声が出る。俺は先生の笑顔のない表情を見るのが怖くて、俯くしかなかった。
 だけど先生は、俺の肩に手を添えると落ち着いた声で言うんだ。

「何を呆れることがあるんだい」
「……えっ」
「ご両親が亡くなって落ち込むのは当然だよ」

 俺が顔を上げると、何とも柔らかい表情で先生はこちらを見つめていた。

「……俺は、今の自分に不安を感じています。レイも同じ心境なのに、毎日スタジオで練習をして笑顔が戻ってきました。だけど俺なんかはつい最近からやっと外に出られるようになっただけで、ダンスもこのざまです。レイは未だに失声症が治りませんが、今の俺なんかよりずっと前向きです」

 声が無意識のうちに震えた。
 こんな俺に対して、ジャスティン先生は静かに話を続ける。

「僕が余計なことを言っていいのか分からないけど……レイは周りが思っている以上に強い子だと思うよ」
「えっ」

 先生はそこで、憂いある表情を見せた。

「僕は今の君を見て、義母が亡くなったときの妻を思い出してしまうよ」
「お義母さんも俺の父と同じアルツハイマーだったんですよね」
「うん。義母が徘徊中に事故で亡くなった日以来、妻は抜け殻のように元気がなくなってしまってね。まるで今の君みたいに。僕は彼女が悲しみに暮れているときは常にそばに寄り添い、何も言わずに抱き締めてあげた。そうすると、次第に立ち直ることできたみたいなんだ」
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