サルビアの育てかた
 ──あの日のことを思い出すと、無意識にため息が漏れる。
 別に本気で交わした約束ではないし、レイ自身も覚えていないと思う。
 ジェイクは叔父という立場を決して忘れずに、亡き姉の大切な子供たち──自分にとって可愛い甥と姪の幸せをこれからも願っていくのだと心に決めていた。
 未だに顔を赤くするヒルスに向かって、ジェイクは柔らかい口調になる。

「安心しろ。何度でも言うが、どうやら今のレイはお前のことしか見えていないようだ。オレはこれからもお前たち二人を見守っていく。親戚の一人としてな」

 ジェイクの言葉を聞くと、ヒルスの口元が綻びる。

「叔父さんには本当に頭が上がらないよ」
「あっ?」
「こんなダメな甥なのに、いつもそうやって優しくしてくれるじゃないか。叔父さんがいてくれて本当に良かったと思ってる。もちろんレイも俺と同じ気持ちだと思う」

 甥からの、思いがけない想いだった。
 ヒルスは二十三歳で肉親を失くした。大人のように思えても、まだまだ若い。十年ぶりに会って身体だけは立派に成長していたとしても、ジェイクにとってはいつまでも小さくて可愛い甥だ。
 ヒルスの髪の毛に手を伸ばし、わしゃわしゃとかき乱してやった。

「うわっ、いきなり何するんだ!」
「お前が可愛くて仕方がないんだよ」
「……はぁ?」
「お前たちの今後が楽しみだな」

 ヒルスは自分の気持ちに気づいていないのか、はたまた否定しているのか知らないがジェイクはある確信を抱いている。おそらく、彼らを見守る周りの人々も分かっているだろう。焦れったい二人を応援するのも悪くない。
 髪の毛を整える甥を眺めながら、ジェイクは密かに笑みを溢した。
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