サルビアの育てかた
「もしかして、乗りたいのか?」

 俺の問いに、彼女は嬉しそうに首を縦に振った。

 今日は大会で本当に頑張っていたからな。ご褒美に、そして──感謝の意も込めて連れていこう。

 近くに車を停め、俺とレイは二人並んでテムズ川沿いをゆっくりと歩み始める。目と鼻の先に光り輝く観覧車があるように見えるのに、なかなか辿り着けないのが不思議だ。夜の街を照らすイルミネーションが息を呑むほど美しく、周りには幸せそうなカップルがあちこちにいる。

 夜景に心を奪われていると、彼女の柔らかい手が微かに俺の指先に触れた。どちらから誘うわけでもなく、俺とレイの手は互いのぬくもりを確かめるように絡み合う。彼女の温度が伝わってくると、心の中があっという間に癒やされた。
 この手を放したくない。今よりも、もっともっと近くにいたい。俺は無意識のうちに彼女の指先をギュッと強く握った。

 本当は周囲の目を気にしなければいけないのに。今の俺は、そんなことに注意を払っている余裕なんてない。

「レイ」

 俺が呼びかけると、彼女は愛々しい瞳でこちらを見上げた。

「今日は凄かったよ。ますますレイのダンスが魅力的になった……。本当に、おめでとう」

 俺が感極まって称えると、レイは急に歩みを止めた。俺もつられて立ち止まり、彼女の方を振り向く。

「どうした?」

 レイの瞳をじっと見つめる。溶けるような眼差しは、揺らぐことはない。
 そして彼女は、口をゆっくりと動かしたんだ──

「……ヒルスの、おかげ、だよ」
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