サルビアの育てかた
 頭の中がぐるぐる回転してしまい、次の言葉を発せられない。
 一人勝手に狼狽える俺を見ながら、レイは眉を八の字にする。

「ヒルス、大丈夫……?」
「ああ、ちょっとな。色々と思考が追いつかなくて」

 俺は照れ隠ししながらわざと咳払いをしてみせた。

 するとレイは、微笑んだまま俺の手をもう一度握ってくる。
 彼女の繊細な指先に触れられると、全身がたちまち熱に包まれてしまう。
 
「そうだよね、戸惑うよね。変なこと言っちゃってごめんね……」

 遠慮がちに声が小さくなるレイを前に、俺は大きく首を振った。

「謝るなよ。レイは何も悪くない」
「でも、困らせちゃってるから」
「違う。困っているわけじゃないよ。ただ……」

 俺は、それ以降続きを口にすることはできなかった。

 だってレイはまだ十六歳だから。俺たちが血の繋がった兄妹ではないこと、レイは元々孤児だったこと、この全てを打ち明けて【俺の想い】を伝えるのは、今はしてはならないから。
 自分でも本当に焦れったいと思う。だけど、天国で見守ってくれている父と母の想いを無下にしたくないんだ。

 彼女の黒い瞳が、夜景に照らされて虹色に染められる。俺はその美しい宝石から目を離せなくなった。

「……レイ。もう少しだけ、待っていてくれないか」
「うん?」
「そのときが来たら、必ず伝えるから」

 澄んだ眼差しで俺を見つめるレイの表情は本当に美しい。
 目を細め、彼女はこくりと頷いた。
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