サルビアの育てかた
「先生、もうビールなくなりそうですね。オーダーしてきますよ」

 フレアはテーブルのグラスを要領よく確認し始めた。

「じゃあ、スタウトを一パイント追加しようかな」
「いいですね、ジャスティン先生。どんどん飲みましょ。レイは? おかわりする?」

 ハイテンションなフレアに圧倒されながらも、レイは「サイダーをお願いします」と小さく答える。そのオーダーに、フレアは更に上機嫌になったようだ。

「レイ、ホント可愛らしいわ! 今日はたくさん飲みましょうね!」
「は、はい」

 フレアは楽しそうにカウンターへ追加オーダーしに行った。
 このノリにレイは少々戸惑っている様子だった。俺はさりげなく耳打ちする。

「フレアは飲み始めると、大体いつもあんな感じだから気にするな」
「そ、そうなんだね」

 大人たちに混ざり、パブで飲むなんてレイにとっては初めての経験だろう。疲れてしまわないだろうかと俺は少し心配だった。
 だけど笑顔を絶やさず、フレアの絡みにもジャスティン先生の話もしっかり聞いていて、大人な対応をする彼女は流石だなと思う。

 アルコールがいい感じに回り始めたフレアの勢いはまだまだ止まらない。追加オーダーをし終えると、次にグラスを持って乾杯の音頭を取り始めるんだ。

「それでは皆さん。改めまして。この度は期待のダンサー、レイがロンドン大会でめでたく一位入賞したこと。そして我がスタジオのヘタレヒルス君が無事復帰出来たことを祝しまして――乾杯!」

 フレアが朗らかにそう言うと、皆は一斉に
「チアーズ!」「チアーズ!」
 と声を合わせ、更にその場が盛り上がった。

「ヘタレは余計だぞ……」

 フレアには聞こえない声量で小さく呟くが、隣にいたレイの耳には届いていたようで、彼女はくすりと俺を見上げながら笑っていた。
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