サルビアの育てかた
 ──飲み会が終わりに近づいた頃、俺はシャンディを僅か二杯飲んだだけで酔いがとんでもないことになっていた。
 気分が最高に悪くなり、ふらついた足でどうにかトイレに駆け込むと、そこで少しばかり戻してしまう。

 目の前がぼんやりしてきた。ただでさえアルコールに弱い体に、久々に酒を浴びせてしまったんだ。今日はこれ以上、飲むのはやめておこう。

 頭痛がしたままトイレから出ると──扉の向こうで、レイが心配そうに俺を見つめて立っていた。

「ヒルス、大丈夫……?」

 彼女の顔を見た瞬間、胸がカッと熱くなる。

 レイは、俺を心配してくれているのか。

 わざわさ様子を見に来てくれた彼女を前にして、なんだかよく分からないがとても舞い上がってしまった。

(俺は、レイに愛されているんだ……)

 酔いのせいで思考がおかしくなってしまったのかもしれない。
 勢いでレイを壁に押しつける。そのまま俺は彼女に強く抱きついた。

「レイ、可愛い」
「えっ。ヒルス……どうしたの?」

 恥ずかしさとか自分の立場とか、今の俺には冷静に考えることなんて出来ない。
 甘えた声を出し、レイの耳元で俺はまるで恋人に捧げるような台詞を囁き続ける。

「昨日の大会でお下げ姿も可愛かった。またいつか、俺の為におめかししてよ」
「う、うん。ていうか離して。誰か来るかも……」
「嫌だ。離したくない」
「ダメだよ、ヒルスっ」

 俺の暴走は加速してしまう。レイに抱きつくこの腕は、力を緩めることなんてしない。
 自分で自分の行動が抑えられなかった。

「ちょっとヒルス。やめて……!」

 抵抗しようとするレイの声すらも愛おしく感じた。
 俺はゆっくりと瞼を閉ざす。

 好きだから止められない。大好きな人に想いを伝えたい。もっと近づきたい。ぬくもりがほしいんだ。

 それ以降、俺は自分が何をしてしまったかなんて分かるはずもなく。記憶が全てすっ飛んでしまった。
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