サルビアの育てかた
※
幻影に打ち勝ったのだとばかり思っていた。でもそれは、単なる私の思い違い。
逃げようとしていたけれど、ただ目を逸らしていただけ。
悪魔はもうすぐそこに、私の背後まで迫って来ている──
『ねえ、あんたは今幸せなの?』
暗闇の中で、冷たい声が聞こえた。
それは、私の心に圧を掛けるような重たいもの。
『あなたは……誰?』
『幸せなのかって、訊いてるのよ』
一体、なんなの……?
これはきっと、夢の中。
問いかけられたことに、私は戸惑いながらも答えることにした。
『私は……幸せだよ? 私を大切に想ってくれる人がいるもの』
『でもそれって、家族としてなの?』
『そうだよ。私たち、二人きりの家族だから』
『ふふ……なんだか可哀想な子ね。あの男を本当の兄だと思ってるのかしら』
『家族って色んな形があるんだよ。私たちの絆は固く結ばれているから、どんな関係だっていいの』
『笑わせないで。そんなのはただの綺麗事! あんたを家族として愛してくれる人なんていないんだからね。あの男だってそう。違う目であんたを見ている。あんただって、そうじゃない?』
『それは……』
『あんはね、本当の家族の愛を知らないままこれからも生きていくのよ』
『ちょっと待って。……本当の家族の愛? あなたに愛のことなんて分かるの?』
『なんですって』
『私は知ってるよ。ちゃんと知ってる。小さい頃から私にたくさんの愛情をくれた人たちがいるから。あなたと違ってとても優しい。あたたかくて素敵な人たちなの』
『その二人ももうあんたのそばからいなくなったけどね』
『だとしても……私は、今でもあの人たちのことが大好き。あなたがくれないものをたくさんくれた。愛情をたくさん持っている人たちなの。あなたなんかと正反対』
『何よ。ずいぶん、生意気な口を聞くようになったのね。あんたを育てた奴らの顔が見てみたいわ』
『やめて! 私のお父さんとお母さんのことを悪く言ったら許さない……』
『あはははは。お父さんとお母さんですって? おままごとでもしているつもりなのかしらね。いい? あんたに本当の家族はいないの。あんたは捨てられたんだから! あいつらはただの赤の他人。もちろん、あの男もね』
『違う……違うよ。私の大切な人たちだよ。家族なんだよ。あなたには一生分からない。……愛をくれない人なんていらないから。もう二度と、私の前に現れないで!』
『どの口が言ってるのかしら! 本当に生意気な娘ね』
──お前なんか生んでやらなきゃよかったわ──
そう言われた瞬間、私の瞳から止まることのない冷たい雫が溢れ落ちた。
幻影に打ち勝ったのだとばかり思っていた。でもそれは、単なる私の思い違い。
逃げようとしていたけれど、ただ目を逸らしていただけ。
悪魔はもうすぐそこに、私の背後まで迫って来ている──
『ねえ、あんたは今幸せなの?』
暗闇の中で、冷たい声が聞こえた。
それは、私の心に圧を掛けるような重たいもの。
『あなたは……誰?』
『幸せなのかって、訊いてるのよ』
一体、なんなの……?
これはきっと、夢の中。
問いかけられたことに、私は戸惑いながらも答えることにした。
『私は……幸せだよ? 私を大切に想ってくれる人がいるもの』
『でもそれって、家族としてなの?』
『そうだよ。私たち、二人きりの家族だから』
『ふふ……なんだか可哀想な子ね。あの男を本当の兄だと思ってるのかしら』
『家族って色んな形があるんだよ。私たちの絆は固く結ばれているから、どんな関係だっていいの』
『笑わせないで。そんなのはただの綺麗事! あんたを家族として愛してくれる人なんていないんだからね。あの男だってそう。違う目であんたを見ている。あんただって、そうじゃない?』
『それは……』
『あんはね、本当の家族の愛を知らないままこれからも生きていくのよ』
『ちょっと待って。……本当の家族の愛? あなたに愛のことなんて分かるの?』
『なんですって』
『私は知ってるよ。ちゃんと知ってる。小さい頃から私にたくさんの愛情をくれた人たちがいるから。あなたと違ってとても優しい。あたたかくて素敵な人たちなの』
『その二人ももうあんたのそばからいなくなったけどね』
『だとしても……私は、今でもあの人たちのことが大好き。あなたがくれないものをたくさんくれた。愛情をたくさん持っている人たちなの。あなたなんかと正反対』
『何よ。ずいぶん、生意気な口を聞くようになったのね。あんたを育てた奴らの顔が見てみたいわ』
『やめて! 私のお父さんとお母さんのことを悪く言ったら許さない……』
『あはははは。お父さんとお母さんですって? おままごとでもしているつもりなのかしらね。いい? あんたに本当の家族はいないの。あんたは捨てられたんだから! あいつらはただの赤の他人。もちろん、あの男もね』
『違う……違うよ。私の大切な人たちだよ。家族なんだよ。あなたには一生分からない。……愛をくれない人なんていらないから。もう二度と、私の前に現れないで!』
『どの口が言ってるのかしら! 本当に生意気な娘ね』
──お前なんか生んでやらなきゃよかったわ──
そう言われた瞬間、私の瞳から止まることのない冷たい雫が溢れ落ちた。