サルビアの育てかた
「お前らなあ、喧嘩している場合じゃないぞ」

 きっぱりとそう言われ、思わず固まってしまう。レイの方を見ると、彼女も口を閉じたままでいる。

「間に挟まれているオレが一番気まずいんだよ」
「……ごめん、ジェイク叔父さん」
「お前たちは残された二人きりの家族だろうが。つまらないことでギクシャクしてたら、この先やっていけないぞ」

 わざと意地悪く言う叔父に、俺はちっとも反論できない。俯き加減になると、レイが視界に入ってきた。
 彼女は叔父の話を無視するかのように、両親とリミィの墓に『サルビア』を並べ始めた。

「おい、レイ。オレの話を聞いているのか?」
「うん。聞いてるよ。別に私たち、喧嘩してるわけじゃないから。ね、ヒルス」
「えっ? あ、ああ。そうだな……?」

 無表情でこちらを見上げるレイに対して、俺はぎこちなく頷く。

「ほう? そうだったか。どうやら、オレの勘違いだったようだな。だったらオレは、今すぐにホテルへ戻って仕事をしなくちゃならない」
「えっ」
「お前らはもう少しゆっくりしていけよ」
「ちょっと待って、ジェイク叔父さん。それなら三人で一緒に帰ろうよ……」

 焦ったようにレイが叔父の前に立つが、無駄な抵抗のようだ。困った顔をするレイを見下ろし、叔父は少し厳しい口調で言い放つ。

「いや、オレは一人で帰る。レイはヒルスとパーク内で散歩でもしていったらどうだ?」
「何それ……」
「ヒルスも。分かったな!」

 強い目つきで、叔父は真っ直ぐ俺の顔を見てくる。

 ああそうか。仕事と言うのは口実だ。単に叔父は、俺たちを二人きりにしたいだけなんだ。

 確かに叔父の言うとおり。これから俺とレイは二人きりの家族として生きていかなければならない。両親の墓は静かに立ち尽くしていて、それを見ると受け入れるしかない現実なんだと思い知らされる。
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