サルビアの育てかた
 ──叔父がそそくさとその場から立ち去ってしまった後、俺とレイは無言で近くのパーク内を歩き回る。
 なんとなくそばにあったベンチに、レイと並んで腰かけた。でも、いつもならお互い肩が触れるくらい近くに座っているはずなのに、今日は明らかに彼女と距離が離れていた。

 レイに避けられているんだ……悲しい。彼女にこんな態度を取られるなんて辛すぎる。
 俺は涙目になりながら恐る恐るレイに問いかけてみた。

「レイ。俺のこと、嫌いになったか……?」

 自分でも引くほど声が震えてしまう。

 レイは変わらない無の表情で前を向いたまま。何かを考えるように遠くを見やり、やがてゆっくりと首を横に振った。

「何言ってるの?」

 それからレイは、真っ直ぐ俺のことを見つめてくるんだ。
 この日、初めて彼女と目が合った。それだけで嬉しい。俺の胸の鼓動が、一気に早鐘を打ち始める。

「ヒルスのこと、嫌いになるわけないよ」

 そんなレイの言葉に、俺の胸は更に高鳴る。

「本当か?」
「嘘なんて言わないよ」
「じゃあレイが怒ってる理由って──俺が飲み会の時に酷いことをしたから、だよな」
「……」

 レイは目線を下に落とす。

「怒ってるわけじゃなくて……ビックリしたの」
「ビックリした?」
「うん」

 本当はこの時、訊きたかった。「俺はレイにキスなんてしてないよな」と。
 だけど恐ろしくて、そんなこと口にする勇気なんてない。無理に決まっている。
 本当に俺は、立派なチキン野郎で残念な奴だ……。
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