サルビアの育てかた
 俺は彼女に微笑みかけた。

「せっかくの誕生日なのに、俺なんかと二人で過ごすなんてもったいないだろ?」
「どうしてそんな風に思うの?」
「友だちだったり、誰か好きな人と過ごしたいものじゃないのか」

 レイの表情に心配の文字は消え去った。だけど今度は、不思議そうな顔になるんだ。

「ヒルスの言う通りだよ。特別な日を大好きな人と過ごしたいのは当然でしょ」
「……ん?」
「だから、来月は楽しみにしてるね!」

 レイは満面の笑みを浮かべ、たしかにはっきりとそう言った。
 たちまち俺の胸の奥が赤く染められる。高まる鼓動が彼女のところまで伝わってしまいそうになった。

 ──なあ、レイ。君は気づいていないかもしれないけど、近頃の俺は、レイの何気ない言葉に翻弄されているんだよ。
 どうして兄に対して、ドキドキさせるような台詞を投げかけてくるんだ。どうしていつもそんな可愛い顔をして、「大好き」だと言ってくれるんだ。
 もちろんレイのひとつひとつの言動は、俺に幸福をくれる。歓喜して、君に向かって「愛してる」と叫びたくなるほどに。

 だけど、そんなことはできないから。レイにとって、俺は血の繋がった兄として関係を続けなければならないから。
 俺の想いを伝えてしまったら、全てが終わる。もしかすると、この幸せな時間が崩れてしまうかもしれない。

 だけど──レイが心の奥底で何かを想っていることは、俺だって分かっているんだ。
 必ずその時が来たら、想いを伝えるから。だからあと少し、待っていてほしい。
< 454 / 847 >

この作品をシェア

pagetop