サルビアの育てかた


 その日の帰り道。

 俺とレイは余韻を残したまま車に乗り込んで帰路についた。
 車内には今日踊った曲がガンガンに流れていて、レイはダンスの振り付けを両手を使って表現している。ついでに鼻歌なんかも口ずさみ、そんな彼女が可愛らしい。

「やっぱりイベントって楽しいね。順位なんか気にしないで、気兼ねなく踊れるんだもん」
「そうだな。レイ、今日は朝からずっと楽しそうだよな」

 赤信号で車を停めると、レイはそこで一度両手を休めた。すると彼女の右手が俺の指先に当たった。何も言わず、俺たちは互いの手を自然と握り締め合う。
 レイの嬉しそうな表情を見たくて、俺はふと彼女の方に顔を向けた。

「ねえ、ヒルス」
「うん?」
「ヒルスって、素敵な先生だよね」

 突然彼女にそんなことを言われ、俺は一瞬固まってしまう。

「いつも真剣にダンスを教えてくれるもの。優しいだけじゃなくて、厳しい時もある。細かいところも妥協せずに指摘してくれるでしょう? それで、私たちがよく踊れたら今度はちゃんと褒めてくれる。ロイも言ってたけど、ヒルスのレッスンは心が込もってるんだよね。だから私たち、もっと頑張ろうって思えるんだよ」

 彼女の口から初めてそんなことを言われた。インストラクターとして、コーチとして当然だと思っていたから。レイがそんな風に思ってくれているなんて思いもしなかった。
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