サルビアの育てかた
 風の通る音だけが鳴り響く。静寂の時間が訪れた。間を置いてから、今度は母が語り始める。

「レイはね、わたしとアイルの希望の光なのよ」

 ──希望の光?
 母の言葉に、俺は小首を傾げる。

「……あれは、ヒルスがまだ二歳になる前ね。覚えていないと思うけれど、あなたにはもう一人血の繋がった妹がいたのよ」
「えっ?」

 思いもよらない告白に、俺は目を見張った。
 俯き加減になり、母は小さな声でゆっくりと昔を思い出すように言葉を紡いでいく。

「だけどね、生まれる前にお腹の中であの子は生きるのをやめてしまったの。臨月に入るわずか三日前のことよ。いつも通り定期検診に行ったの。エコーに映る娘を見るのが楽しみで、わたしはその日も時間より早く病院に着いた。だけど──わたしの弾んだ心は、そのあと絶望に沈められたの……」

 母はしんみりとした表情になる。深く息を吸ってから、続きの言葉を口にした。

「お医者様からね、お腹の子の心臓が止まっていると突然告げられたのよ……。わたしはあのとき、色々考えてしまって。何かお腹に強い衝撃を与えてしまったかしら? 変なものを食べてしまったかしら? それともお腹を冷やしすぎたのかしら? でも、お医者様にも原因が分からなかったの。赤ちゃんの生命力の問題で稀にお腹の中で亡くなってしまうことがあるから、自分を責めないでと言われたけれど……」

 母は、言葉をつまらせた。目から溢れそうになるものを必死に抑えているようだ。
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