サルビアの育てかた



 その日、珍しくジャスティン先生はスタジオの事務室に一人籠っていて、朝の挨拶にすら来なかった。
 気になった俺は、小休憩の間にジャスティン先生を訪ねてみる。

「先生」
「……」

 ノックをしても反応がないし、俺がドアを開けて声を掛けてみても返事もなかった。
 何やら先生はパソコンと睨み合いをしている。今のジャスティン先生の耳には、俺の声はなかなか届かない。

「ジャスティン先生!」

 少しだけ大きい声を出すと、先生はハッとしたようにやっとこちらを振り向いた。

「ああ、ヒルス……。何か用かい?」

 疲れた目をしている先生の声は、いつにもなく元気がない。

「大丈夫ですか? 練習場に顔も出してくれないから……」
「ごめんよ。今後どうするか悩んでいてね」
「今後って?」
「ダンススクールのことだよ」

 無理やり笑顔を作る先生の顔は、瞳の奥で思い詰めた色を浮かべている。

 この時俺は、叔父のジェイクが話していたことをふと思い出した。
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