サルビアの育てかた
 彼女の姿を目にした瞬間、俺はたちまち胸が熱くなる。昨晩のことを思い出してしまう。俺の頬に触れた、レイの柔らかい唇の感触。
 すぐさま俺はジャスティン先生の方に目線を戻す。

 朝からレイとは気まずい。と言うよりも、俺が意識しすぎてしまって彼女を見ただけで身体が火照り、目も合わせられずにいるだけであって。話をするなんて以ての外。
 今日レイは一日個人練習で、俺がダンスの指導に入ることはない。助かった、と内心思ってしまう。
 結果的にレイを避けているようになっているのは事実。俺は自分の悪い癖をどうにかしたかった。
 決してレイのことが嫌いになったわけではなく、むしろ大好きだからこそ、俺は彼女の前でどういう振る舞いをしていいのか分からなくなったんだ。

 俺があれこれ考え込んでいるのをよそに、レイは事務室の中へ何食わぬ顔で入ってきた。

「ジャスティン先生、大丈夫ですか? 一度も練習場に来てくれないなんて珍しいですね」

 レイは少しばかり心配そうな声をしていた。それでもジャスティン先生は、レイの顔を見るなりぱっと表情を明るくするんだ。

「レイ、ちょうどいいところに来てくれたね! 実は相談があるんだよ」
「相談? 私にですか?」

 ジャスティン先生は先程とは打って変わって目をキラキラさせるんだ。
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