サルビアの育てかた
 ──その日のスタジオでの練習が終わった後。レイはスタジオのエントランスで俺を待っていたようだ。
 レイは出口の前に立ち、仕事を終えた俺のことを無表情で見ている。

 結局今日は、ほとんど彼女と会話をしなかった。今、俺の顔は引きつってしまっているだろう。

「ヒルス、お疲れ様」
「ああ……。レイも」

 とんでもないほど、俺の声は低くなる。
 レイは眉を八の字にし、何とも寂しそうな目をした。

 違うんだ、レイ。俺は別に避けているわけじゃない。君の顔を見ると俺の頬にあのぬくもりが蘇り、恥ずかしさがこみ上げてしまうから。この身勝手な気まずさからどうにか逃げ出したいだけなんだよ。
< 499 / 847 >

この作品をシェア

pagetop