サルビアの育てかた
だけど俺はどこまでもチキン野郎だった。自分の部屋の前に着いた途端、ドアを開けようか迷ってしまう。
 中からは、ハンバーグステーキを焼くいい香りがした。レイの作ってくれるハンバーグステーキは、チーズが入っていて、肉厚で、凄くジューシーで美味しいんだよな。
 レイの顔を見ながら過ごす夕食の時間は、一日の中でも一番楽しくて俺に癒やしをくれる。
 その幸せな時間を取り戻すために、部屋に戻るしかない。もう逃げるのはやめにしよう。

 固唾を飲み込み、俺はゆっくりとドアを開ける。

「ただいま」

 勇気を持って、声を掛けてみた。
 だけどレイは、部屋の奥から顔を覗かせて「おかえり」と無機質に答えるのみで。
 この時点で俺の心が折れそうになる。

(いや、悪いのはこっちだ。今日の俺の態度がレイを怒らせているんだから)

 荷物を置き、手を洗ってからレイのそばへ向かう。
 料理は終わっているようで、スープもサラダもテーブルの上に既に並べられている。
 無理やり笑顔を作ると、俺はわざとらしい明るい声で言った。

「今日も美味しそうだな。いつもありがとう、レイ」
「……うん」

 目も合わせてくれないレイは、ハンバーグステーキをテーブルに並べる素振りを見せる。
 今更俺が後悔するのもおかしな話だが、彼女にこういう態度を取られるのは精神的にかなりキツイ。

 いや、それよりもレイは、俺の今日の一日の態度にもっと傷ついているはずだ。 
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