サルビアの育てかた
 しばらく間を置いてから、彼女は低い声で口を開いた。

「……ヒルスとフレア先生って仲良いよね」
「えっ? あ……まあ、同じスタジオで働く仲間だしな」
「きっとヒルスにとって何でも話せる相手なんだよね。フレア先生は背が高くて綺麗だし、気さくな人で、ダンスの教えかたも凄く上手。格好良い大人の女性って感じで憧れちゃうな」

 レイはどういうわけか酷く不貞腐れたような表情を浮かべ、 歯を食い縛った。

「ヒルスには……ああいう素敵な人がお似合いだよね」
「はぁ? レイ、一体何を言っているんだ?」
「だって……」

 俺が頭に疑問符をたくさん並べる中、顔を真っ赤にして言いづらそうにレイは続ける。

「フレア先生って、ヒルスのこと好きなんでしょう……?」

 その時、彼女は初めて俺の顔を見てくれた。だが、とてつもなく負の感情を露にし、劣等感や嫉妬心などが入り交ざったように複雑な色をしているんだ。こんなレイの顔、今までに見たことがない。

 俺は慌てて首を横に振った。

「フレアとは何もないよ。頼れる先輩ってだけだ」
「何にもないわけないよ。私、先生から聞いたんだよ。フレア先生に……キスされたんでしょう? それに『好き』ってヒルスに告白したって言ってたよ。ヒルスが風邪を引いた時にも看病しに部屋まで来たって……」
「それは」

 驚きのあまり、俺はまたもや次の言葉を発するのに時間が掛かってしまう。

 ──なぜフレアはその話をレイにしたんだ? 彼女には知られたくない話だった。もちろん、俺にとってフレアは良き先輩という存在であるから、本当にそれ以上の感情はないのは確かだが。
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