サルビアの育てかた
 焦っていても仕方がない。俺は深く息をゆっくり吐いてから、真っ直ぐレイの顔を見る。

「たしかに、そういうことはあったな。だけどもう過ぎたことだよ。本当にフレアとは何もないんだ」
「……でも、ヒルスってキスされた女の人とも普通に二人でランチに行ったり、仲良く出来るんだね」

 まるで嫌味を言うように、レイの声は沈んでいた。

 いや待て。どうして、そんな風に言われなきゃいけないんだろう。否定しているのに、レイは信じてくれないのか。俺はレイしか見ていないのに、まさか伝わっていないのか。

 そう考えると悲しくなると同時に、レイが納得してくれないこの状況に憤りを感じてしまった。

「そう言うレイはどうなんだよ……?」

 こんなこと言っても、更に事態は悪くなるのは分かっているはずなのに。もどかしい思いを、俺はレイに吐き出すことで、この胸のイライラを解消しようとしてしまった。
 俺まで低い声になっていく。

「レイだって、随分ロイと仲が良いよな。スタジオでもいつも楽しそうに二人で話しているし、休みの日にランチを一緒に食べに行くくらい気が合うんだろ」
「えっ?」

 次はレイが驚く番だ。目を見開いてから、少し俯いてしまう。

 俺だって知っているんだよ。俺はあくまでレイの兄という立場だから今まで何も言わなかったけど、この際言わせてもらう。

「ペアダンスも最高だったよ。それにロイとは歳が近いから話も合うだろう。ロイは良い奴で礼儀正しいし、レイにぴったりの相手だな」

 自分でも馬鹿だなと思う。心にもないことを、嫌味たらしく口にしてしまった。ロイのことは自分の中で解決させたはずじゃないか。だけどレイは知ってるか?

 ロイも、レイのことが好きなんだぞ……。

 どんなに良い生徒で、弟みたいに可愛い存在でも、その事実がある限り俺の中のモヤモヤは解消しきれないようだ。
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