サルビアの育てかた
 孤児院に初めて行ったのは──たしか俺が九歳の頃だ。ロンドン市内のひと気の少ない路地裏にあったと記憶している。

 院内には数人の赤子や小さい子供たちがいたな。活発に遊び回っている子が多かったように思える。立派な教会もあって、遊具で遊べるガーデンもあって、伸び伸びと暮らせるような広さだった。
 父と母と一緒に面談室へ行くと、シスターの隣でちょこんと椅子に座る三歳前のレイがいた。父と母を見て、ニコニコしていたのをよく覚えている。

「何度も何度も面談して、生活面などの話をたくさんしたわ。数ヶ月後にシスターからレイの里親として審査に通ったことを伝えられたとき、すごく嬉しかった……」

 父は母の横で大きく頷いていた。子を失った二人がレイを養女として受け入れた気持ちを考えると、俺は胸が締めつけられる。

「父さんと母さんに、そんな辛い過去があったなんてな……。レイのこと受け入れるのに、ここまで時間がかかってごめん」

 静かに俺が二人にそう言うと、父が優しく肩を叩いてきた。

「お前は謝らなくていい。今ではもう、あんなにもレイを大事にしているじゃないか」
「それに、レイを迎え入れたのはわたしたちのわがままでもあるから。あなたの意見もあまり聞いてあげられなかったわね」
「いや、それはわがままなんかじゃない。レイが家族の一員として来てくれて良かったって今は思っているよ。俺もあいつと一緒にいると楽しいし、父さんと母さんはレイがいるといつも笑顔だしな? あいつが来てから家の中が明るくなった。──それにレイ自身だって母さんたちに引き取られて、きっと幸せだと思う。たとえ何も事情を知らないとしてもな」

 母は口に手を当て、目を細めた。

「ヒルス……ありがとう」

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