サルビアの育てかた
 レイは荒々しくエプロンを投げ捨てる。

「もう、ヒルスなんか知らない!」
「何だとっ」

 俺から背を向けたまま、レイは玄関の方まで駆けていく。
 まさか、出ていくつもりか!

「待てよ、レイ」

 俺は呆れながらも、扉を開けようとするレイの腕を強く掴む。

「何するの、放して!」
「落ち着くんだ」
「落ち着いてるよ! 今はヒルスと二人でご飯なんて食べたくないだけ!」

 この叫び声に近い喋り方は──思い出した。レイが反抗期だった時の口調とそっくりだ。彼女は今、本気で怒っている。

 俺がギュッとレイの腕を離さずにいると、彼女は急に真顔になって言うんだ。

「……火」
「えっ?」
「コンロの火、付けっぱなしだ……」
「なんだって」
「ヒルス、消しといてっ」

 呆気に取られていると、レイは強い力で俺の手から逃れていく。

 しまった。

 すぐにレイを追いかけようとしたが、火を消さなければまずい。急いでキッチンへ駆け込み、コンロを確認してみるが──
 なんと火はしっかり止められていたんだ。

「くっそ、あいつ!」

 レイにしてやられた。
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