サルビアの育てかた


 繁華街を歩き回りながら、俺は何度もレイにコールをしてみる。しかし完全に無視されている状態。

『レイ、今どこにいる?』
『さっきは悪かったよ』
『お願いだから返事をしてくれ』
『心配している』

 メッセージも絶え間なく送り続けても全くの無反応。
 レイは一体何を考えているんだ。これでは、三年前に家出した反抗期娘に逆戻りではないか。

 苛立ちと共に、レイの身に何かあったらどうしよう、という不安が俺の心を蝕んでいく。

 時計を確認すると、夜の八時を過ぎたところだ。この辺りは深夜になると危ない奴らがうろつき始めるので、それまでにはなんとしてでもレイを見つけ出したい。

 繁華街はたくさんの人が行き交っていて、人々と肩をぶつけ合いながら歩くしかないほど密度が高い。こんな場所から一人の華奢な女の子を捜し出すなんて、どう考えても無理がある。
 気持ちが落ち着いたら、レイは返事をしてくれるだろうか。そうでないと困るよ。どうしようもないんだぞ。

 街中に立ち並ぶ飲食店やパブから、いい匂いが漂ってきた。
 腹減ったな……。
 レイと喧嘩なんかしなければ、今頃彼女が作ってくれたハンバーグステーキを二人で食べていただろう。

 どうしてこうなってしまったのか。レイは俺のことを鈍感でイライラすると言っていたが──いくらこの俺でも、レイの気持ちには薄々気づいているんだよ。あんなに怒らなくてもいいだろ……。
 どうしようもなく、俺は力なく歩き続ける。
 胸の中で輝きを放つネックレスが、なぜかその時だけはくすんで見えた。
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