サルビアの育てかた
 俺もたまらず彼女の腰に両腕を回すが、ふと冷静になった時、戸惑いの文字が現れる。

「なぁ、レイ」
「何?」
「こうやっていつも抱き合うのは、おかしくないかな」

 その言葉を聞いたレイは、滲む瞳を俺にこちらに向けながら、身を寄せる力を更に強めてくるんだ。

「さっきもスタジオでハグしたでしょう? 今更、関係ないよ」
「でも……俺たちは兄妹なのに、こんなことをするなんてやっぱり変だと思う」

 レイはじっと俺の目を見て離さず、顔をスッと近づけてきた。今にも彼女の唇が重なりそうになるほどの距離に、ありえないほど胸がドキドキしてしまう。

「違うよね、ヒルス」
「えっ」

 レイの声は、どこか震えている。

「私、知ってるんだよ。ヒルスは鈍感だから、私の気持ちに気づいてないのかもしれないけど。……でもね、隠さないで。これ以上、ごまかさないでほしいの。ヒルスに本当のことを言ってほしい」

 レイの両腕が小刻みに揺れる。
 ──本当のことを言ってほしい。
 この台詞を聞き、俺は息をするのを一瞬でも忘れてしまいそうになる。
 いや、分かっていたはずだ。レイが俺たちの関係について薄々気がついていることを。彼女の言動や態度を見れば、いくら鈍感な奴でも分かるだろう。

 でもな、レイ。君にはいつでも笑っていてほしいから、真実を直接口にするのは怖いんだよ。これは簡単な話じゃない。いつどこで、どうやって俺たちの関係を知ってしまったのか俺はまだ知らない。どこまで話していいのか迷ってしまうんだ。俺の言葉で全てを語ってしまうと、もしかすると君は大きく傷ついてしまうかもしれないから。

 俺が迷っている間にも、レイはじっと見つめてくる。その表情はどこか緊張したような、固いものだった。
 この話題に触れるのが怖いのは、俺だけじゃない。
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