サルビアの育てかた
 レイの髪をそっと撫でると、答えを出す代わりに俺の口はゆっくりとレイの唇に触れようとする。
 頬を赤らめながら、彼女は顔を背けた。

「ヒルス、だめ」
「あっ……ごめん」

 まただ。やってしまった。俺の体は正直過ぎる。
 ふとした瞬間にレイを欲しがってしまい、無意識のうちに衝動を抑えられなくなってしまう。
 もう何度目だろう。レイと約束したのに、俺自身が待つことが出来ていない。
 俺の胸が誰かにぎゅっと掴まれるような感覚になる。

 レイは再び俺の方に顔を向けて優しい口調で言う。

「謝ることじゃないんだよ。でもね……したいなら、先に言ってほしいよ。あなたの口から、直接。私たちの、本当の関係を……」

 どこか切なさが滲み出る声に、俺の鼓動は高まる。レイにはっきりと言われている。俺はもう、怯えている場合じゃないのかもしれない。

 亡くなった父と母の想いを大切にしたいと思って、レイに真実を伝えるのは先延ばしにしていた。
【レイが大人になってから。彼女が十八歳になってから】そのことに囚われすぎていて、俺はレイ自身の気持ちを考えられていなかった。いつもレイの幸せを願っていた両親にも、これでは申し訳ないことをしている。

 俺はフッと微笑んでみせる。
 少しばかり早くなってしまったけれど──彼女に本当のことを伝えよう。
 レイは俺が思っているよりも、大人になっている部分はあるようだから。
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