サルビアの育てかた
 溢れて止まらない想いを伝えた後、レイは俺の顔を見て突然くすくすと笑い始める。
 彼女を求め続ける唇の欲を止め、俺はレイに訊ねた。

「……何が面白いんだ?」
「ううん。何でもない」

 そう言いながらも、レイは肩を震わせ笑い続けている。

「何でもないわけない。そんなに笑ってどうしたんだ」
「そうだよね。気になるよね。でもこんなこと、ヒルスに言っていいのかなあ」

 レイの言葉の意味が理解できず、俺は首を捻った。
 そんな俺に対し、レイはこの上ないほど頬を緩めている。

「あのさ、ヒルス。キスするの、初めてじゃないよね」
「……えっ?」

 レイにそんなことを言わた瞬間、俺の心臓は跳び跳ねそうになる。
 彼女は、嬉しそうな口調で続ける。

「一回目は、私が寝ている時にキス、したよね」
「……嘘だろ」

 まさか。

 レイがロンドン大会で優勝したあの夜のことか。横で眠る彼女に、俺が勝手にキスをしてしまったことを言ってるのに違いない。
 顔から火が出そうになる。

「あの日? レイ、起きていたのか」
「起きてたというか、起きちゃったの。あんなに何回もキスされたら、普通起きるよ」
「……ごめん。俺、最低だったよな」
「他の人だったら許さないよ。だけどヒルスだから嫌じゃなかったの」

 レイはそう言ってくれるが……いくら何でも、好きな相手が寝ている隙に唇を奪うなんて最低野郎がすることだ。レイが許してくれても、俺はあの日の自分の行動に今でも後悔している。
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