サルビアの育てかた
「それなら……」

 メイリーは渇いた声で、とんでもない話を始めるんだ。

「もうあの子を虐めないって約束するから、あたしとデートしてくれない?」

 この言葉が放たれた時、俺はたちまちしかめ面になる。頭の中に拒否反応という四文字が一気に駆け巡る。

「ありえない。断る」
「一回だけよ、駄目?」
「無理な話だ」

 性格の悪い女の相手をするのがこんなに大変なものなのか。俺は何度目か分からないため息を吐いた。

「お前と二人で歩いているのをもしレイに見られたりしたら、あいつを傷つけるのは分かっているだろう」
「分かってるからデートしたいの」

 メイリーの口角は不自然に上がっていて、目は一切笑っていない。よくもこんな表情が作れるな、俺の背筋は凍りついていた。
 何かを思い出したように、メイリーはふっと鼻で笑う。

「あのさ、あたしね、何でも知ってるんだよ?」
「はぁ?」
「レイってさ……実の親に虐待された挙げ句に捨てられたんでしょ? 本当にどこまで可哀想な子なんだろうね」
「……!」

 俺は目を見張った。一瞬、声が出なくなってしまう。

「あー。その顔。レイは自分が虐待されていたこと、知らないみたいだね」

 この話は、俺とシスター以外に知っている人はいないはず。
 手の震えが止まらない。どうにか口を開いて疑問を投げつけた。
「どうして。あんたがそのことを……?」
「何年前だっけなー、孤児院のダンスイベントの帰り、会場の外でヒルスが誰かとその話してるのを聞いちゃったんだよねー」

 ──まさか。シスターとの会話を聞かれていたのか!
< 557 / 847 >

この作品をシェア

pagetop