サルビアの育てかた
 ゆっくりと互いの唇を離し、俺は彼女に優しく微笑みかける。

「部屋に戻ろう。風邪を引いたら大変だ」
「うん、そうだね」

 立ち上がりバルコニーの窓を開けようと、取手に手を掛けようとしたその時──

 突如、眩しい白い光が一瞬だけ目の中を刺激した。

「……ん?」

 俺は思わず空を見上げる。

「雷?」

 レイも白い発光の正体が分からず、首を傾げてほぼ俺と同じタイミングで夜空を見た。
 だけど今日は朝から今まで雲ひとつなく、月もよく見えるような快晴だ。

「なんだろう、どこかで花火でもしてるのかな?」

 疑問符を浮かべながらレイは呟くように言うが、俺も首を捻るしかない。
 俺たちが立ち尽くしていると、冷たい秋の風が再び通り過ぎていく。

「気にしていても仕方ない。レイ、中に戻ろう」

 俺もレイも、結局その一瞬の白い光が何なのかハッキリしなかったが、その後はすっかりそのことも忘れて二人で夕飯を食べていた。

 あの光の正体がどれだけ重大なものだったかなんて、その時の俺たちには知るすべはなかった。
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