サルビアの育てかた
 だけどモラレスさんの表情は終始優しい。

「あなたたち、事情が世間にバレたら怖いの?」
「……はい。きっと嫌な思いするんだろうなっていう、漠然とした不安があります」

 レイは小さな声で、無表情でそう答えた。
 そんな彼女を見て、モラレスさんは腰に手を当てる。

「そうねぇ、その気持ち分からなくもないけど」
「どういうことですか?」
「アタシだってここまで来るのにとても苦労してきたもの。見ての通り性的少数者だから、売れない頃は世間にすごいイジメられたわよ。オカマが踊ってるだけの低俗ダンサー、とかね」
「そんな。酷い……」
「でもどんなにディスられても、それって少しは世間が注目してくれてるってことでしょう。アタシはそれをチャンスと思って、ディスられてもとにかく色んなステージで踊りまくった。アタシ自身はこんなんでも、ダンスはピカイチなのよ。見てごらんなさい! てね。そしたらだんだんディスりから、『あいつのダンス、凄くね?』ていう声が聞こえてくるようにもなってきてね。ファンも知らずのうちにどんどん増えていったのよ。無我夢中で踊りまくっていたら、いつの間にか世界中の人たちがアタシを応援してくれるようになったの」
「へえ……」

 俺とレイは、その話に聞き入っていた。
 過去を語るモラレスさんの口調は穏やかだが、表情の奥はどこか切なさの色も混じりこんでいる。

「あなたたち二人に、ものすごーく複雑な事情があるのは分かってる。別に無理に聞かないけど。その事を世間に知られたら傷つくんじゃないかってビビッているのよね」
「まあ……」
「経験から言わせておくけど、いつか必ずそれらはバレるし、傷つくかもしれないわ。でもその時こそ勢いをつけて。あなたたちの素晴らしいダンスを、世界に魅せるチャンスなんだから!」

 そう語るモラレスさんの目は輝きを放っている。この人が言うことは、とんでもないほど説得力がある。
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