サルビアの育てかた


 ある日。遅くまでダンススクールで居残り練習していたヒルスは、珍しくハイテンションだった。

「レイ!」

 帰宅するなりリビングにやって来て私の顔を見た瞬間、気持ちを爆発させるように声を張り上げた。
 いつにもない様子にちょっと戸惑ってしまう。

「どうしたの、いいことでもあったの?」
「ビッグニュースだ!」
「なになに?」
「ジャスティン先生のダンススタジオでインストラクターとして働くことになったんだよ!」
「えっ、ヒルスが? ダンスの先生になるってこと?」
「そうだ、すごいだろう!」

 まさか、本当に? ヒルスがインストラクターになるなんて! ダンスを教える仕事に就くんだもんね。すごい、本当にすごいよ!

「これも全部レイのおかげだ」
「私の……? どうして?」
「先生が言ってくれたんだ。俺がレイにダンスを教えているところを見てイントラにならないかって。だから、レイのおかげだって俺はマジでそう思っている」
「そうなの? それはヒルスが今まで一生懸命頑張ってきた甲斐あってだと思うなぁ」

 私たちは嬉しさのあまり、勢いでギュッと抱き合った。
 彼は私が物心ついたときから既に踊っていたんだもの。大きな夢が叶って本当に嬉しいんだよね。もちろん私も同じ気持ち。
 おめでとう。何があっても、これからもヒルスのことを応援するからね。素敵な先生になってね。
 彼が大きな一歩を進んでいくのは嬉しかった。嬉しかったよ、だけど……。

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