サルビアの育てかた



 帰り道。俺とレイは、ひとけが少ない道を選んで帰路につていた。
 空の向こう側は既に夕陽が沈みかけていて、変わりゆく紺色とブライトイエローが目に癒やしをくれる。

「ねえ、ヒルス」
「うん?」
「私ね……自分が元孤児であることに、心のどこかではいつも後ろめたさがあったの」

 静かに放たれるレイの言葉が、たちまち俺の胸を締め付けた。
 歩みを止め、俺は彼女をじっと見つめる。切なさで溢れる瞳が美しく、俺の鼓動はいつものようにドキドキと音を響かせていた。

「家族の中で自分一人だけ血が繋がっていないと知ったあの日、どうしようもないくらい怖くなったの。何かあったら、私は家族としていられなくなるんじゃないかなって」
「何かあったらって……?」
「うん……結局ね、その『何か』の答えを見つけることはなかったよ。見つける必要もなかったから。だって、お父さんとお母さんは血の繋がりがない私を、最後まで本当の娘として育ててくれたもの」

 レイの声色は透き通っていて、優しさと愛しさで溢れていた。
 俺は口を閉ざし、彼女の話に耳を傾ける。

「私が家出したあの日──お母さんは本気で私を叱ってくれた。それに、お父さんからの愛情も溢れるくらい伝わってきたの。あの日、改めて分かったよ。グリマルディ家の娘としてこれからも生きていられるんだって。お父さんとお母さんがちゃんと教えてくれたんだよ」
「レイ……」

 彼女の表情はとても美しい。俺がどうして彼女をこんなにも愛しているのか、もう一度気付かされた瞬間だった。

 レイは自分の境遇を知りながらも、前向きにいつも明るく振る舞っている。レイの笑顔にはいつも癒やされるし、どんなに辛いことがあっても彼女のぬくもりは俺の心を満たしてくれるんだ。
 過去に何があったかなんて関係ない。彼女はとても強くて逞しい女性に成長していたから。
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