サルビアの育てかた
 一層美しさを魅せる彼女は、微笑みを絶え間なく俺に向けて語り続ける。

「元孤児でも、私は素敵な家庭で育ててもらえた。それに……今までもこれからも『大好きな人』と一緒に生きていくことが出来る。これって凄く幸せだよね。もしもこのことが世間に知られても、私全然怖くないよ」
「レイ……」

 彼女が言う「大好きな人」。聞きたい。レイの口からハッキリと言ってほしい。
 想いが溢れてしまい、俺は少し甘えた声を出してわざと彼女に問いかける。

「なあ、レイの言う大好きな人って、誰のことだ?」
「……そんなの、分かってるでしょ?」
「レイの口から直接聞かせてよ」
「もう、甘えん坊なお兄ちゃんだね。決まってるよ。……ヒルスしかいないからね?」

 あの夕陽のように頬を赤く染め上げ、照れくさそうに答えてくれるレイの振る舞いが可愛くて愛しくて。俺はひと目も憚らず、道のど真ん中で堂々と彼女を抱き締めた。

 抱擁する彼女のぬくりもからは、プロのダンサーになることに対する強い決意がしっかりと俺の心にまで伝わってきた。きっとレイなら、何があっても大丈夫。
 彼女と巡り会えたことに、改めて感謝したいと思った。
 
「レイ」
「なに?」
「レイが【生まれた場所】に行ってみないか」
「私が、生まれた場所……? 」
「そうだよ。神聖で優しくて、とてもあたたかい場所なんだ。そこに──レイのことをずっと待っている人がいる」

 俺の胸の中に身を寄せていたレイが、ゆっくりと顔を見上げた。その表情からは愛しさや懐かしさが溢れかえっているような気がした。

「……うん。私も、ずっとその人と会いたいと思ってたの」
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