サルビアの育てかた
 ──なあ、レイは覚えているか?
 孤独と寒さと恐怖の中で君が助けを求めていたあの日、君を救ってくれた人のぬくもりを。
 レイは思い出せないかもしれない。だけど記憶の奥底で、君に初めて人の優しさを教えてくれた人の存在を、心はきっと覚えている。
 たとえ君が望まれない生を受けた子だったとしても、君がこの世に生まれてきてくれたおかげで希望を持てた人たちがいる。君が懸命に生きてくれたおかげで、本当の愛を知ることが出来た人がいる。
 何も悲しくはない。君がここにいるだけで、たくさんの幸せが舞い降りてくる。他の何にも代えられない尊い幸せが。
 君がいつも笑顔で幸福に満ちた日々を送るだけで、世界は明るくなるから。

 俺は大切な人の手をギュッと握り締め、彼女が生まれ育ったもう一つの場所へと歩んでいった。
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