サルビアの育てかた
第一章



 家族が嫌い。ううん、私に家族なんていない。
 本当は大好きで、大切なのに。
 帰るお家を見失ってしまった。
 優しいぬくもりも、大きな懐も。安心する彼の笑顔も。

 陽が沈みかけた寒さ走る田舎町。少しでも風が吹くと身体が震える。あっという間に手が悴み、心の奥まで凍えそうになった。
 右側には静かな田園風景。左側には蜂蜜色に染め上がった石造りの家々が果てしなく並んでいる。慣れ親しんだ風景が、今日はいつになく寂しく感じた。

 さっきから何度も母からの着信やメッセージが、私の携帯電話に届いている。

《今どこにいるの?》
《何時に帰ってくるの?》
《今日は家でごはんを食べるのよね?》
《お父さんがあなたに謝りたいと言っているわ》
《早く帰ってきて、レイ》

 そんな母からのメッセージを、全部無視した。

 ──レイは、私の名前。グリマルディ家の子として今まで生きてきた。知りたくもなかった事実を他人から聞かされ、ショックを受けて彷徨い続ける十四歳の娘。

 もうあの家には帰らない。私の居場所なんてない。行く当てもなく、静けさが広がる道をとぼとぼと独り歩き続けた。
 この近辺は、陽が沈むと外を出歩く人は殆どいなくなる。家と反対方向を目指す私の行動は自分でもおかしいと思う。
 友だちの家に泊めてもらおうかな。繁華街まで目指してみようかな。それとも……。
 冒険心で夜に向かって歩いているわけじゃない。
 どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。
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