サルビアの育てかた
 私の様子を見てヒルスはふざけるのをやめ、困ったような声で話すの。

「おい、そんな顔するなよ。離れて暮らしててもいつでも会えるだろ?」
「だけど、きっと忙しくなっちゃうよね」
「気にするな。レイが寂しくなったらいつでも連絡しろよ。お前のためにいつでも時間は作ってやる」
「……本当?」
「当たり前だ。それに、月に二回はダンススクールにイントラとして教えに行くんだぞ」
「えっ、そうなの?」
「ああ。ライクがオフの日に、俺が代替として中級クラスを担当することになったんだ。だから前日にはここに泊まって、レイと一緒にスクールへ行くからな」
「そっか」

 ライクさんは、インストラクターとしてダンススクールで働くことになったんだって。
 たまにスクールにヒルスが来てくれるなら……寂しくないかな。

「お休みの日もこっちに帰ってくる?」
「用事がなければいつでも帰るつもりだよ。俺が会いに行くんだから、レイもたまには俺の家に遊びに来いよ。泊まったっていい」
「うん、分かった」

 そっか、そうだよ。離れている分、楽しみもあるよね。
 私だってもう子供じゃない。家族の一人が少し離れたところで暮らしていたとしても、きっと大丈夫。心の距離は近いから。

 優しい眼差しを向けてくれるヒルスは、おもむろに私の頭を撫でてきた。

「もしまた夜にあの怖い夢を見たら、遠慮なく俺に電話しろ」
「え……いいの?」
「一人で怖がって眠れなかったらどうする? 父さんたちに甘えるのか?」
「それは、ちょっと恥ずかしい」
「だったら俺に頼れ」
「寝てても電話に出てくれる?」
「爆睡してても出るよ。約束する」 

 不思議な感覚がした。なぜか胸の奥が赤く染まっていくようで、ちょっとくすぐったい。

 どうしてあなたはそんなに優しいの? 妹に対して、そこまで考えてくれるお兄ちゃんって普通じゃない気がする。でも、とっても嬉しいよ。ありがとう。
 ヒルスは柔らかい口調で私を安心させてくれる。

「レイに何かあったら、必ず駆けつけるからな」

 うん……約束だよ。
< 61 / 847 >

この作品をシェア

pagetop