サルビアの育てかた
 俺は無意識の内に歯を食いしばる。目の前で終始嫌らしい笑みを浮かび続ける男に、俺は声を震わせながら訴えた。

「記事にするのはやめてほしい。生まれた時のことだけは……彼女は何も知らないんだ」
「そう言われましてもねぇ、ヒルスさん。こんなスクープを逃すなんて簡単に出来るわけがないでしょう。あなたたちはこれからあの大物スターのバックダンサーとしてデビューするんですよ? 一気に人気者になりましたからねぇ」
「……」

 狼狽えるな。
 レイにあのトラウマを蘇らせることだけは、絶対に避けなければならない。どんなに気持ちがイライラしていても、丁寧に言葉を並べて懇願するしかないんだ。

「お願いします……この通りです。大切な人が傷つくのを見たくないんです」

 無力な自分に腹が立つ。本当はこの男に怒鳴りつけてやりたいくらいだった。「他人のプライベートを勝手にネタにして恥ずかしくないのか」と。
 だけど今、俺が感情のまま行動してしまえば、事態は更に悪化するのは目に見えている。
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