サルビアの育てかた
 男は俺を眺めながら小さく息を吐いた。

「そこまで仰るんでしたら、妥協案はありますよ」
「……本当か?」
「ええ。本命ではありませんがね。せっかくですから、こちらを記事にしましょうか」
「何? 」
「あなたが所属するダンススタジオに、ジャスティン・スミスというトップインストラクターがいますよね。あの人、ダンサーとしても経営者としても成功していて、本当に素晴らしいお方だ。最近では新しいスクールを建てられたみたいで」

 そこまで言うと、男は急に暗い声になる。

「……だけど、生徒にはちょっと厳しすぎるんじゃないですか」
「は?」

 俺は記者の話に疑問符を浮かべる。

 厳しすぎる、だって? それはレッスン内容のことか?

 確かにジャスティン先生は大会やイベント前になるとレッスン時に厳しくなる。でもそれは、本気でダンスを指導してくれているからであって、インストラクターとしては当然のこと。

 考え込む俺をよそに、記者は冷たい声で続けた。
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