サルビアの育てかた
 ──この期に及んで俺は迷ってしまった。

(レイにトラウマを思い出させてしまうのはもちろん避けたい。だけど、ジャスティン先生のことを記事にされてしまっては、きっと先生が困る……。一体、どうすればいいんだ)

 俺は返事もせずに、固まってしまった。
 そんな俺の様子を面白そうに眺める男の顔は、あまりにも人を小馬鹿にしている。胸糞悪かった。

 話し込んでいるうちに、辺りはすっかり陽が沈み、街灯が明るく照らされる頃になる。
 結局俺は、その場で答えを出すことが出来なかった。

「好きにすればいい。ただ、それがきっかけでジャスティン先生に迷惑を掛けるのは許さない。レイのことも。あんたらの下らない記事に翻弄されたりしないからな」

 低くドスの利いた声でそう言い放つのが精一杯だった。
 だが男は怯む様子もなく、最後まで面白そうに笑っていたんだ。

「そうですか。分かりました。では、何かあったらいつでもご連絡お待ちしていますね。お渡しした名刺にも、連絡先が書いてありますから」

 そう言ってから記者はその場を立ち去って行った。
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