サルビアの育てかた
「近寄るな」

 低い声で俺が警告を投げつけると、女は一度足を止める。

「あんた……誰?」
「お前こそ誰だ。レイに近づくな」
「何、一体……? 関係ない奴は引っ込んでてくれる……? ワタシはレイの母親(・・)なのよ……」

 悪魔が放ったその一言に、俺の中で太い糸がブチ切れた。

「お前なんかレイの親でもなんでもない。今更、母親面をするな!」
「はあ? さっきから何なの……?」

 女はイライラしたように歯ぎしりを始めた。意識が半分飛んだような目をしながら俺を眺める。

「ああ、まさかあんた。見たことある。ネットの記事に載ってたわ……。レイの義理の兄とか言って【家族ごっこ】している男よね」
「……は?」
「義理の兄がレイに手出して……アハハハ。最高じゃないの。いいわねえ……毎日二人でイチャイチャして楽しい?」

 女は馬鹿にしたように嘲笑っている。その顔が吐き気がするほど汚らしい。

 俺の怒りと嫌悪感は上昇するばかり。
 恐怖と混乱に包まれるレイを庇いながら、俺は更に声を荒らげた。

「黙れ、お前には関係ない。何度でも言う。お前はレイの母親なんかじゃない!」
「何を言っているの? そいつを生んだのは他の誰でもない、このワタシなのよ……」
「だから何だ。レイのことを育てたのは俺たち家族だ」
「家族……? 笑わせないで。血の繋がりもないくせに。そいつにはアタシと同じ血が流れているのよ。……それにあんたは、そいつを家族として見ていない。どうして妹と、抱き合ったりキスしたりするの? おかしいわねぇアハハハ……」
「──それは」

 言葉に詰まってしまう。こんな自分が不甲斐なく、馬鹿にされたことが物凄く悔しい。
 別に何も間違ってはいないはずだ。レイとこういう関係になれたことも後悔していないし、毎日が幸せなのに。
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