サルビアの育てかた
父と乾杯していると、そこでいつも俺の隣に誰かが座ってくるんだ。
『お父さんとお兄ちゃん、週末に飲んだ方がいいんじゃないの?』
俺は【彼女】の方を振り向く。たが、その顔はぼやけていてよく見えない。輪郭や表情は何となく浮かんでいるのに【彼女】がどんな顔でどのようなヘアスタイルをしているかなどが認識出来なかった。
この子は、俺をいつも「お兄ちゃん」と呼んでくる。だから俺の妹には間違いないだろう。
夢の中だというのは充分理解している。それなのに、この光景が日常として俺の身体にすっと染み込んでくるような、不思議な感覚になるのはなぜなんだ。
父も母も、そして俺の妹も。もうこの世にはいないはずなのに。
俺は夢の中でいつも冷静に考えていた。
(馬鹿だよな。これが日常みたいに感じてしまうなんて。現実を見ろよ。俺のそばにいる家族は、今はレイだけなんだ)
俺が意識の中で苦笑すると、いつの間にか目の前は真っ暗になっていた。
毎晩同じことの繰り返し。俺が夢の中でレイの存在を思い出すと、三人の姿は消えてなくなってしまう。
不可思議な感覚。
怖くとも何ともない、むしろ少しだけ心地の良い幻想の世界。