サルビアの育てかた
 ──目を覚ますと、いつもの朝がやって来る。レイが俺の隣で気持ちよさそうに眠っている現実だ。
 あの夢を見たあとに彼女がいる世界に戻ってくると物凄く安心する。
 彼女の頬にそっと触れた。柔らかい感触からあたたかみが伝わってきた。
 大丈夫。俺はたしかにここにいる。

「んん……」

 レイの綺麗な瞳がゆっくりと開かれる。眠そうな彼女の表情も、最高に可愛らしい。

「おはよう、レイ」
「ヒルス……おはよう」
「よく眠れたか」
「うん……。ヒルスがそばにいてくれるから、大丈夫だよ」

 力の抜けた、掠れた声すら愛おしかった。

 毎晩現れる家族と過ごす世界は幻想に過ぎない。どんなに心地良くて楽しいものだったとしても、俺は今レイと二人で生きている。
 失ってしまったものは、二度と取り戻すことは出来ない。前を向いて生きていくんだと、俺は強く決めている。

 愛しい彼女の全身をギュッと抱きしめながら、俺はそっと彼女に囁いた。

「レイがそばにいてくれるから、俺は幸せだよ」
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