サルビアの育てかた
俺には心に決めたことがある。レイが二十歳になる日、彼女にプロポーズをするんだと。
彼女がどんな返事をしてくれるかなんて、俺は特に心配もしていなかった。
それよりも、どんなシチュエーションならレイが喜んでくれるのか悩みどころだ。
指輪も用意しないといけない。レイは指が細いよな、何号なんだろう。
あれこれ頭を巡らせながら俺がベッドに布団をセットしていると、いつの間にかレイが隣に立って俺をじっと眺めていた。
「ヒルス、なんか変」
「変って?」
「さっきからずっとニヤニヤしてる」
「そうだったか?」
「どんな楽しいこと考えてるのかなぁって気になっちゃって」
「それは、秘密だよ」
「ふーん?」
レイは口角をこの上なく緩めながら、俺の顔をぐっと覗き込んできた。
今朝から忙しくてまだレイとキスすらしていない。
可愛らしい彼女の顔を見た瞬間、俺はたちまち欲求が抑えられなくなった。
ベッドにセットしようとしていたシーツから手を放し、そのままレイを抱き寄せる。彼女の髪の毛からシャンプーと汗の匂いがふわっと香ってきて、俺の嗅覚を癒やした。
「レイ、本当に可愛い」
「えっ。急にどうしたの?」
「レイがそんな顔するから」
「私はいつも通りだよ」
「知ってる。いつも可愛いってことだよ」
「……ちょっと」
照れたように、レイの声量が小さくなっていく。こういうリアクションも、全部が俺の感情を高ぶらせるんだ。
俺は思いのままに、彼女の潤う唇にキスを落とした。彼女と交わす口づけは、いつだって俺の欲を満たす。
片付けの終わらない広い新居の壁と壁の間を、二人の唇が重なる音が響き渡る。
「……ヒルス、片付けしないと」
「うん。でも少しだけ、いいかな」
止まらない俺の衝動を抑えつけるように、レイはそっと俺の上唇に人差し指を重ねた。そんな彼女の目は真剣だ。
「夜まで待って」
「……マジか」
「マジです。やるべきことをやってからじゃないと、駄目だよ」
──やるべきことを、か。
レイのその台詞を聞いた時、俺は何だかじわじわと笑いが止まらなくなってしまった。真剣だったレイの顔が、だんだんと解れていく。
「ちょっとヒルス。何笑ってるの?」
「いや。何でもないよ」
と言いつつ、俺は笑いを堪えることが出来ない。
頬を少しふくらませるレイは、「まったくもう」と言いながら両手を腰に当てる。
「レイはしっかりしているよな」
「そう?」
「ああ。俺なんかよりも何倍も」
俺がもう一度レイのことを軽く撫でてあげると、彼女は少しだけ頬をピンク色に染め上げた。